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なんっっっでこんなメンドくさいことしなくちゃなんないの。
なんて思ってる間にさっきの問の途中式がザカザカと消され、黒板はあたしのノート作成意欲みたいにまっさらになってしまった。
あーあ。カキコーシュー、響きからしてもうつまんない。
窓の外は隣のビルのコンクリート色しか見えないし、教室内も他校の人ばっかり、目の保養は来てないし、しかもなんか、みんな受験モード出してるから物音ひとつ立てられない雰囲気だし。
手元に目を落とせば、講師の説明が無くなり暗号と化した数字の羅列。こんなん残しといたって意味ないわ。吐き出した息は、紙のぐしゃりともつれる音に遮られた。
握った消しゴムに、座りっぱなしで有り余ったエネルギーが炸裂したらしい。下の2ページも巻き込んで、きれいなノートには不規則で歪なシワが刻まれ、あたしの気力はさらに削がれる。可愛く描けたウサマロの悲惨な姿が追い討ちをかけた。
消すんじゃなかった。いや、消さなくていいようにもっと早くノート書いとくべきだった?ううん、やっぱ最初から何も書くんじゃなかった。完全に集中力の切れたあたしは、シャーペンも手放して両の手で頬杖をつく。
つーかもう、筆記用具とか滅びないかな。
ちょっと前から大学の制度でなんかすごいところに短期留学中の姉のとこでは、板書がデータで生徒に送られてくるって言ってた。こないだ会った姪っ子なんかは、小学生のくせにタブレットで勉強してたし。そんな中で、手書きって。
このダメ消しゴムなんて、消すどころかぐちゃぐちゃに汚しやがったし。
校門前で予備校の人がよく配ってるありふれた消しゴム。みんなと被りまくりだからマスキングテープで巻いて可愛くしてるけど、次からはもうそんな情けもかけてやんないんだから。
親指と人差し指でつまんで、両側面から恨みを込める。ぶるぶると震えながらゆがむ白い顔。
それがなんか妙に面白くてふふっと笑うと、両側からの力の均衡が少し崩れたこの時を待ってましたとばかりに、消しゴムはあたしの指から弾丸のように脱出した。
「っ、」声をギリギリで止める。先生は背中を向けていたのでセーフ、だけど2列前にいた2人組とメガネの人に怪訝な顔で振り返られた。最っ悪。
あたしが視線に固まっている間にヤツは地面にぶつかり、斜めに跳ねたかと思えば高速で右に切り返し、あっという間に見失った。反抗期にも程がある。
探そうとは思わなかった。いよいよ愛想も尽きた上に残り時間もあと10分ちょいだし、席を立って更に注目されるのも嫌なので、ここは束の間の自由を与えてやろうではないか。
とはいえ、残ったあたしはやることが無かった。ウサマロも描いては消してを繰り返した大作だったからもう描く気力は無く、問の解説を途中から聞く気にもならない。壁のコンクリの粒を数えてやろうかとも思ったけど、いざやるとなると想像以上につまらなかった。
手持ち無沙汰で反対を向くと、あたしの真横のいちばん端、その1列前の、おまえどうやったらそこまで行けるんだ、というような距離の先で、力尽きた脱走兵が机の上でぐったりとしているのを見つけた。
“あっ”の顔でいると、机の主と目が合う。サイキ君だ。え?は、うそ、サイキ君?
今日は欠席だとばかり思っていた目の保養が視界に飛び込んできた。周りに流されることのない、ワックスとは無縁の丸いフォルムは後頭部も正面も同じで、いやそうじゃなくて、いつも背中だったから、目なんて合ったことなかったから。そういえばあたしより後に遅刻してきた人いるなって思ってたけど、まさか。
不意打ちで驚くあたしの間抜け顔に表情一つ変えず、むしろさすがの理解力を披露してくれたサイキ君は、手元のそれを掲げ、あたしを指す。“これ、そう?”
あたしは呆けたまま細かく二度頷いた。こんなことならもっと可愛いテープで巻いておくんだった、と明後日の方向へ飛んでいく意識をハッと引き戻し、両手を前に伸ばしてステイのポーズ、それから時計を指さす。サイキ君は一間置いてOKを掲げると、先生の説明に集中を戻した。やはり表情はカッチリと動かなかったけど、その硬さとポップなOKサインのちぐはぐさが、なんか、もう、めちゃくちゃズルいわって思った。
緊張がほどけると同時にこの状況にもようやく理解が及び、また別の緊張が襲ってくる。チャイムが鳴ったら、あたしどんな顔すればいいんだろ。というか、何話そう?遅刻の理由がめっちゃ気になるけど、いきなり聞いたらダルいかな。
いつも通りだけど、いつもと違う気持ちで授業の終わりが待ち遠しい。熱を持った溜め息がか細くこぼれた。
気づかれないように、ちらりと見る。いつもと違う角度を噛みしめるとともに、改めてあの長距離をよく跳んだなアイツ、と感心する。
さっきは滅びろなんて思ってごめん、戻ってきたら褒めてあげよう。
チャイムが鳴る。見直した評価がこのあと更に爆上がりするんだけど、そんなこと今のあたしはまだ知らない。
不規則に跳ねて拾われあの人の手が触れたから消しゴムは神
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