パンプスって恋

自分の足にぴったりフィットする運命のパンプスは少ない。


毎朝恒例パンプスダッシュ300メートル決勝、改札機のゴールテープを切ろうかという直前でタイルの溝にヒールがつっかかり勢いのまま片方裸足になる私、振り返れば床に転がるパンプス。

私はこれをシンデレラ現象と呼んでいる。


なんともメルヘンな名前をつけているけど、ケンケンで取りに戻るみっともない姿までがセットなのでシンデレラには程遠い。あでも、「灰かぶり」が語源らしいのでみじめな姿って部分では的を射ているか。

なぜそんな話をするかって、ええ、今日の出来事でございます。恥ずかしかった~


原因は何か、私の身支度が遅いせいでダッシュしなくちゃいけない時間帯に家を出るから。ハイ分かってる。分かってるけど、今回は犯人をでっち上げさせていただく。


原因は、履いていたのが運命のパンプスじゃなかったから!


歩くには問題ないけど走るとカパカパしちゃうのよね。

ぴったりのを買いなさいよと考える方もいるでしょうが、私は足の幅が人より広いのでそこに合わせると縦にも大きいサイズになってしまうのです。

というか、そもそもこのパンプスというアイテム、購入に至るまでの難易度が尋常じゃないのよ。

自分の足にぴったりな運命のパンプスも、探そうと思えば探せる。ただ労力に見合わない。


まずサイズの時点で既に厄介。23.5だのLLだの38だの、表記が統一されていなくてややこしい上に、同じサイズ表記でも製造メーカー毎に大きさが微妙に違う。業界内の基準がふんわりしている、しすぎている。


長時間歩くタイプなのでヒールの高さも重要。歩きやすいのがいいけど、かといって低すぎるのは見栄えが悪い。だったらスニーカー履く。

せっかく足を痛めて履くのだからスタイルアップくらいさせてほしいもんね。なのでカパカパ防止策の最善手とされている足首のストラップは脚長効果いまひとつにつきあまり好まない。

ヒールの太さも見る。細すぎるとぐらつくし、太すぎたり一体型のウエッジソールだったりはなんか個人的にパンプスというカテゴリから外れる気がしてしまうし。


そこの基準を超えて、ようやくデザイン。

ここまで勝ち残っても色がしっくり来なければ脱落。テカテカのエナメル素材だと脱落。たまについてるワンポイントのリボンやパールの主張が強いと脱落。骨格の関係で似合いにくいのでラウンドトウ(つま先が丸いタイプ)も脱落。うーんものすごい倍率。

そして最後に値段。最後に、とか書いてるけどここまで勝ち残った子を私のお財布事情だけで脱落させてしまうのは悲しすぎる(さらに私の心も荒む)ので、まあ、実質ここが最初の関門だったりする。



とにかく、これら全てが自分にぴったりくるパンプス、探し当てるのは至難の業であることがお分かりいただけただろうか。

ちなみにめちゃくちゃ頑張って運命のパンプスに出会ったとしても、月日を共にするうちにソールはすり減りトウは剥げ、どんなにこまめなメンテナンスで愛してあげたとしてもヒールが折れればさようなら。

だからやっぱり労力に見合わない。


こんな悲しい思いをするくらいなら、いっそ運命のパンプスなんて出逢わなければよかった…ッ!!!というのが素で起こりうる。いや恋かて。

そして、運命のを探してもどうせすぐダメになるんだし…と、強い思い入れも無いまま妥協したパンプスとの短い付き合いばかりが重なってゆく。いや薄っぺらな恋かて。


それから私と違って世の中には、運命のパンプスへ労力を惜しみなく注いで(なんなら労力を注いでいる自分というものに価値を見出して)、身をすり減らしながら探し続ける人もいるだろうし、

そもそも生まれつきの足が靴のサイズの業界基準にドンピシャで、履くもの全てを運命のパンプスとして最高の相性で付き合うことができる超ヒロイン気質(足質?)の人とかもいると思う。


パンプスって、恋だわ。



そういえば、通販で買ったとあるパンプス、

履いてみたらちょっとキツくて最悪の第一印象だったのに、革に近い素材だったのか歩いているうちにみるみる足に馴染んできて、

今では私以外にこのパンプスを履ける者はいないのではないかってくらいのフィット感(これまた違う意味でのシンデレラ現象)。

別に見た目が特別良いとかじゃないのに、なんなら真っ黒だし、他にいくらでも同じようなのやもっと素敵なのがあるのに、なぜかあの日の自分は数ある中から選んでいて、

サイズだって、合わなければサヨナラって手もあったのに、文句を言いながらも何だかんだ一緒に歩き続けて、いつしかそれが心地良い時間になっていて。

履き潰して、いつもならお別れのタイミングで、柄にもなく傷ついたところメンテナンスに出してる自分がいて、

そこでようやく、「あ、こいつと離れたくないんだ」って気付いて────



いや王道の恋かて。


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